片側の顎が痛み出した際、多くの人がドラッグストアに駆け込んでロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン)やイブプロフェンなどの市販鎮痛薬を服用します。しかし、ネットの掲示板や知恵袋などでは「ロキソニンを何錠飲んでも顎の激痛が全く引かない」という悲痛な声が溢れています。これには明確な医学的理由が存在します。
ロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、プロスタグランジンという炎症物質の生成を抑えることで痛みを緩和します。しかし、顎関節の痛みが「過度に短縮・痙攣した咀嚼筋の凝り(筋筋膜痛)」や「関節円板が物理的に挟まり下顎頭の骨同士が干渉しているメカニカルな障害」に起因している場合、化学的な消炎鎮痛薬では物理的な圧迫・血流不全を解消できないのです。
痛みが消えないからといって規定量を超えて鎮痛薬を乱用すると、胃腸障害を引き起こすだけでなく、中枢神経が痛みに過敏になる「薬物乱用頭痛」や慢性疼痛の罠に陥ってしまいます。薬を2〜3日服用しても全く改善しない場合は、薬で抑え込めるレベルの単純な滑膜炎ではなく、関節円板の完全脱臼や重度の筋肉拘縮が起きていると判断しなければなりません。
さらに現場の取材で浮かび上がった大きな誤解が、「痛む部位を無理に温めるか冷やすか」の判断ミスです。急性期の発症直後(ズキズキと熱を持って痛む時期)に長湯をしたりカイロで温めたりすると、血管が拡張して関節内の内圧が上昇し、かえって痛みが爆発的に悪化します。逆に、何週間も続く鈍い重だるさ(慢性筋拘縮)に対して氷で冷やし続けると、血行不良を招いて筋肉がさらに硬化してしまいます。状態に応じた適切なアプローチの見極めが不可欠です。