「法線」という言葉を初めて耳にした際、多くの学習者が「なぜ『法』という文字が使われるのか」と疑問を抱きます。英語では「normal line」、ベクトルであれば「normal vector」と呼ばれます。この「normal」には「標準の・垂直な」という意味があり、中国や日本の数学史において「法」という漢字が「法則・基準・直角を測る定規(規矩準縄)」を意味していたことに由来します。つまり、法線とは文字通り「空間や図形の基準となる垂直線」を指します。
接線と法線の違いを直感的に把握するために、以下の幾何学的関係を頭に描いてみてください。
滑らかな曲線のある1点に触れるように引いた直線が「接線」です。たとえば、丸い風船の表面に薄いガラス板をそっと乗せたとき、ガラス板が触れている接点から、ガラス板に沿って伸びる方向が接線です。これに対し、法線とはその接点において接線(3次元空間では接平面)と正確に90度(直交)で交わり、外側や内側へ突き抜ける直線を指します。風船に針を垂直にまっすぐ刺す方向こそが、まさに法線の向きです。
ここで知っておくべき専門的な事実として、分野による言葉の多義性があります。数学や物理学では「垂直に交わる線」を指しますが、土木工学の領域における「道路法線」「航路法線」は、道路や構造物が伸びていく「中心軸線・線形」そのものを慣用的に法線と呼びます。Yahoo! JAPANの知恵袋や専門掲示板でも「現場で法線と言われて直角だと思い込み、大混乱した」という新人の体験談が散見されますが、本稿で扱うのは幾何学・物理学・情報工学における厳密な意味での法線です。