香典を渡す際の挨拶で、多くの人が無意識に使ってしまい後から冷や汗をかくのが「通夜葬儀での忌み言葉」だ。日常会話では丁寧語や強調表現として使われるフレーズが、弔事の席では凶事の連鎖を想起させる重大なNGワードとなる。
絶対に口にしてはならない代表例が、同じ言葉を繰り返す「重ね言葉」だ。「ますます」「たびたび」「重々」「いよいよ」「くれぐれも」といった言葉は、不幸が重なることを連想させる。同様に、「再び」「続いて」「追って」といった連続を連想させる言葉も避けねばならない。遺族に「くれぐれもお体をご自愛ください」と言いたくなった場合は、「どうぞお体を大切になさってください」と言い換えるのが正しい。
さらに深刻なのが、宗教・宗派による死生観の違いを無視した言葉の誤用である。インターネット上のマナー解説でも混同されがちだが、「ご冥福をお祈りします」という言葉は万能ではない。
神道(神式)では、故人は冥土へ旅立つのではなく、家の守り神(祖霊)になると考えられているため、「冥福」という仏教用語は完全に誤りである。神式キリスト教式の挨拶違いとして、神式では「御霊(みたま)のご平安をお祈り申し上げます」、キリスト教式では「安らかな眠りをお祈り申し上げます」「主のみもとに召された〇〇様の平安を祈ります」と述べるのが本来の作法だ。
仏教のなかでも、日本最大規模の信徒数を持つ浄土真宗では、亡くなった人は即座に阿弥陀如来によって極楽浄土へ往生する(即得往生)と教えるため、死後冥途を彷徨うことを前提とした「冥福」や「霊前」という言葉は教義上用いない。どの宗派か判別できない状況下では、宗派を選ばず誰に対しても礼を失しない「心よりお悔やみ申し上げます」を選択するのが極めて堅実な判断となる。
また、2026年現在もっともトラブルになりやすいのが「家族葬での香典辞退マナー」だ。訃報通知に「故人の遺志により、御香典・御供花の儀は固くご辞退申し上げます」と明記されているにもかかわらず、「そうは言っても義理があるから」「手ぶらでは格好がつかない」と無理に香典を持参し、受付で押し問答になるケースが後を絶たない。
辞退の意向が示されている場合、香典を持参しないことが最大の礼儀である。万が一会場で受付から辞退を告げられた場合は、一切食い下がることなく「ご遺志でございますね、承知いたしました。どうぞ心よりお悔やみ申し上げます」と静かに引き下がらなければならない。香典を受け取ってしまうと、遺族は後日「香典返し」の手配を余儀なくされ、精神的・金銭的負担を倍増させる結果となる。