長年、料理研究家や家庭の間で「しらたきのカルシウム(水酸化カルシウム)が肉のタンパク質を凝固させ、肉を硬くする」「しらたきと牛肉は隣り合わせにしてはいけない」という言説が信じられてきました。しかし、現代の食品科学実験によってこの説は完全に覆されています。
一般財団法人日本こんにゃく協会が実施した厳密な比較検証実験(「すき焼きの具材(しらたき・牛肉)に関する検証試験」)によると、しらたきを牛肉の真隣に配置して調理した場合と、しらたきを一切入れずに調理した場合で、肉の硬度・pH値・官能評価に統計的な有意差は認められなかったことが公表されています。
しらたきでお肉が硬くならない理由は明確です。現在の市販しらたきは製造技術の向上により、アク抜き処理や水洗いが十分に行われており、溶出するカルシウム濃度は微量にとどまります。肉が硬化する唯一にして最大の原因は「過剰な加熱(70℃以上での長時間の煮込み)」です。牛肉に含まれる筋原線維タンパク質(ミオシン・アクチン)は65℃を超えると急激に変性・収縮し、肉汁を失ってパサつきます。肉をしらたきから離すことよりも、肉に火を通しすぎないことこそが科学的に正しい肉の柔らかさの維持法です。