作品を深く理解するために、まずは物語の骨格となるストーリーと議論を呼んだラストシーンを整理します。学校の読書感想文の要約や作品の再確認としても押さえておきたい核心部分です。
売れない若手漫才コンビ「スパークス」のボケを担当する徳永は、熱海の花火大会の営業先で、奇抜な漫才を披露する先輩芸人・神谷と運命的な出会いを果たします。神谷の常識にとらわれないお笑い哲学と圧倒的なカリスマ性に魅了された徳永は弟子入りを志願。「俺の伝記を書くこと」を条件に師弟関係を結んだ二人は、吉祥寺や下北沢の街で夜な夜な酒を酌み交わし、お笑いとは何か、表現とは何かを熱狂的に語り合います。
しかし、時の流れは残酷でした。徳永が所属するスパークスは少しずつテレビ出演の機会を得て世間に順応していく一方、己の美学を曲げられない神谷は借金を重ね、私生活も表現活動も破綻の道を転がり落ちていきます。やがてスパークスは鳴かず飛ばずのまま解散を決断。徳永は芸人を引退し、不動産会社の営業マンとして社会の歯車になる道を選びます。
数年後、徳永の前に姿を現した神谷は、借金取りから逃れるための奇策、そして「面白い人間になろうとした極端な結果」として、巨乳化(豊胸手術)をしていました。グロテスクとも滑稽ともつかない先輩の姿に徳永は激しい衝撃を受け、泣き笑いしながらも、生きている限り人間としての営みや挑戦は終わらないという生の肯定に至ります。この結末は、夢に破れた表現者の残酷な末路であると同時に、「生きている限りバッドエンドはない」という又吉氏の一貫した祈りが込められた象徴的な幕切れとなっています。