インターネット上の検索サジェストに現れる「碇ゲンドウ 声優 交代の真相」「碇ゲンドウ 声優 死亡説の理由」というキーワードを目にして、不安を覚えたファンは少なくありません。報道資料および公式キャストクレジットを精査したところ、テレビアニメ第1話から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に至るまで、碇ゲンドウ役を務めたのは立木文彦氏ただ一人であり、声優が交代した記録は存在しません。
では、なぜこのような根拠のない噂が一人歩きしてしまったのでしょうか。関係者の証言や当時のファンの言説を分析すると、大きく分けて3つの要因が浮かび上がってきます。
第1の要因は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズにおける制作ブランクと演技プランの変化です。2012年公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』から、完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開までには約9年もの歳月が流れました。さらに『シン・エヴァ』終盤では、従来の冷酷な総司令官としての声調ではなく、人間としての弱さや孤独を吐露する「内省的なゲンドウ」の演技が求められました。この声色のニュアンスの違いや、長い公開間隔によるファンの記憶の揺らぎが「声が変わったのではないか」という憶測を招いたのです。
第2の要因として、他キャストの変更やベテラン声優の訃報との情報混同が挙げられます。エヴァンゲリオンシリーズでは、赤木リツコ役の山口由里子氏が一時期産休に伴い代役(勝生真沙子氏)へ引き継がれた前例がありました。また、ゲンドウの腹心である冬月コウゾウ役を長年務めた名優・清川元夢氏が2026年に逝去されるなど、長寿作ゆえに昭和・平成を支えた名声優の訃報が相次ぎました。これらのニュースがSNSやまとめサイトの文脈で不正確にシャッフルされ、「ゲンドウの声優が亡くなった」「交代した」という誤認ワードへと変異していった構造が見て取れます。
第3の要因は、碇ゲンドウというキャラクター自体の劇中での最期です。旧劇場版(『Air/まごころを、君に』)において、ゲンドウは初号機に体を噛み砕かれる凄惨な結末を迎えました。作中キャラクターの強烈な「死」のイメージが、インターネット検索の検索補助機能(サジェスト)を介して声優本人の安否情報と誤って結びつけられたことも、死亡説が定着した大きな引き金となっています。