昭和の音楽史において、世界的な金字塔を打ち立てたのが、永六輔(作詞)、中村八大(作曲)、坂本九(歌唱)による「六八九トリオ」です。1961年に発表された『上を向いて歩こう』は、1963年にアメリカのビルボード誌で「SUKIYAKI」の名で週間シングルチャート1位(3週連続)を獲得。アジア圏の楽曲として現在も破られていない歴史的快挙を成し遂げました。
後年の自著や特番インタビューで本人が赤裸々に振り返ったところによると、この歌詞は単なる失恋の哀愁を描いたものではありませんでした。1960年の日米安全保障条約改定阻止運動(60年安保闘争)に参加し、国会議事堂を取り囲むデモに加わっていた永六輔は、挫折感と無力感に打ちひしがれ、夜の雨上がりの街並みを一人とぼとぼと歩く中で「涙がこぼれないように」上を向いたという、生々しい個人的な絶望と悔しさが原点にありました。
中村八大のジャズセンス溢れるモダンなコード進行、そして坂本九の独特な吃音的スタッカートを交えた人間味あふれる歌唱が重なり、個人的な挫折の歌は「普遍的な希望の賛歌」へと昇華されました。六八九トリオはこの後も『見上げてごらん夜の星を』『明日があるさ』など、日本の歌謡界を塗り替える傑作を世に送り出し続けました。