冒頭に登場する「葡萄美酒(ぶどうのびしゅ)」と「夜光杯(やこうのはい)」は、当時の唐代の人々にとって極めてエキゾチックで魅惑的なキーワードでした。
当時の中原(中国本土)の伝統的な酒は穀物酒であり、西域からもたらされた葡萄酒は大変な高級品でした。また「夜光杯」とは、西域の崑崙山脈で採れる上質な白玉(はくぎょく)を極限まで薄く削り出し、夜の光や月明かりを透かして放つ特別な盃のことです。
シルクロード交易の要所であった涼州だからこそ手に入る最高峰の贅沢品。その贅を尽くした器に注がれる深紅の葡萄酒は、これから戦場で流される兵士たちの血潮を想起させる不穏な美しさをたたえています。五感を刺激する色鮮やかな描写があるからこそ、その後に続く死への絶望がいっそう残酷に胸へと迫るのです。