精神科や心療内科を受診した当事者が最も打ちのめされる瞬間は、「これほど心身が限界なのに、なぜ休職の診断書を書いてくれないのか」という疑念に苛まれる時です。厚生労働省の患者調査データを見ても、気分障害(うつ病など)で医療機関を受診する患者数は高止まりを続けていますが、精神科の診断書判断基準は患者の自己申告だけで機械的に適用されるものではありません。
心療内科で診断書の拒否や保留が下される背景には、臨床医学における極めて合理的な事情が存在します。筆者が複数の臨床精神科医へ取材を行ったところ、診断書が出ない主因として以下の4点が浮かび上がりました。
第一に、「うつ病」と「適応障害」や「正常なストレス反応」の鑑別診断に時間がかかる点です。初診時の問診だけで重篤なうつ病と確定診断を下すことは、専門医であればあるほど極めて慎重になります。もし職場の配置転換や一時的な環境調整で改善するストレス反応である場合、安易に「うつ病で休職を要する」と診断を下すことが、かえって患者のキャリア復帰を難しくするリスクがあるからです。
第二に、診断基準を満たす症状の客観的証拠が不足している点です。精神疾患の国際的診断基準(DSM-5など)では、「抑うつ気分」「興味や喜びの喪失」といった主要症状が、ほぼ一日中、2週間以上継続し、日常生活や就労に著しい機能障害を及ぼしていることが求められます。「仕事がつらい」「会社に行きたくない」という強い訴えがあっても、週末には趣味を楽しめていたり、睡眠や食欲のバイタルサインが保たれていたりすると、医師は「休職を要する重篤な障害状態」とは認定できません。
第三に、身体疾患や薬物性の影響を排除しきれていないケースです。甲状腺機能低下症や脳疾患、あるいは下垂体関連のホルモン異常によって、うつ症状と酷似した倦怠感や気力低下が現れることがあります。採血検査や頭部画像検査などの結果を待たずに精神疾患の診断書を書くことは、重大な器質的疾患の見落としにつながるため、医学的に避けなければならない手順なのです。
第四に、休職という処方箋が逆に症状を悪化させるリスクを医師が警戒している場合です。うつ病の初期や軽度の場合、完全に社会から切り離されて自宅に孤立することで、自責感や不安が増幅し、かえって病状が慢性化するケースが少なくありません。医師は「休ませることが本当にこの患者の寛解につながるか」を冷徹に天秤にかけています。