「自分たちの育てた牛の牛乳が、まさかシンガポールやロンドンでここまで愛されるなんて想像もしていなかった」。美瑛町で代々続く酪農家のひとりは、眩しそうにそう語る。
一般的な流通ルートでは、様々な牧場の生乳がタンクローリーで混ぜ合わされ、「北海道産牛乳」として均一化されて出荷される。しかし、それでは牧場ごとの土壌やエサ、牛の品種による風味の差が消えてしまう。ブランド側は道内の農家を直接一軒ずつ訪問し、集乳方法から低温殺菌処理の温度設定に至るまで、徹底的な協議を重ねた。
「エサに青草が増える夏と、乾草が中心になる冬では、ミルクの脂質も甘みの出方もガラリと変わる。その季節ごとのブレを『個性』として楽しむ文化を、彼らは作ってくれた」。生産者への適正な価格還元とリスペクトに基づいた取引構造が、疲弊する日本の酪農界に新たな光を射し込んでいる。