一粒でも口にすれば命を落としかねない猛毒。それを無害化する原料となるのが、主に日本海で水揚げされるゴマフグの卵巣だ。春先に獲れた新鮮な卵巣は、まず大量の粗塩に漬け込まれ、およそ1年以上の歳月をかけて徹底的に水分と油分を抜かれる。この塩蔵工程だけでも毒性はある程度低下するが、真の魔法はここから始まる。
塩抜きを経た卵巣は、米糠、糀、いしる(魚醤)とともに巨大な杉樽へと隙間なく敷き詰められる。重石を載せて密封し、そこからさらに2年から3年。夏の酷暑と冬の厳寒を幾度も越えるなかで、樽内部では乳酸菌や酵母による激しい発酵劇が繰り広げられる。驚くべきことに、熟成を終える頃には毒素が完全に消失し、代わりにアミノ酸と核酸が爆発的に増加。舌を刺す塩気の奥から、圧倒的な旨味と芳醇なチーズのような熟成香が立ち現れる。