春の風物詩である「桜前線」の北上と、地域ごとの木々が見せる見事な一斉開花。この現象も、ソメイヨシノがクローンであるからこそ生じる科学的現象です。
種子から育つ山桜などの野生種は、一本一本が異なる遺伝情報を持っています。そのため、同じ山や斜面に生えていても、日当たりや樹齢によって開花時期に数日から1週間以上のズレが生じます。対してソメイヨシノは全個体のDNAが全く同一であるため、気温変化や休眠打破に必要な気象刺激への反応基準が完全に均一です。
冬の一定期間の寒さにさらされることで花芽の休眠が破れ(休眠打破)、その後の春の気温上昇に伴って花びらが成長するプロセスにおいて、すべての木が全く同じタイミングで開花シグナルを受け取ります。その結果、同じ気候帯にある樹木が一昼夜のうちに揃って開花し、満開を迎え、一斉に散っていくという息をのむような景観が生まれるのです。気象庁が長年にわたり高精度な桜の開花予想を発表できるのも、対象樹木が遺伝的ブレのないクローンであるからに他なりません。