ふたりの関係性を語るうえで、那田蜘蛛山での最初の衝突を避けて通ることはできない。「そんなだからみんなに嫌われるんですよ」というしのぶの軽口と、「俺は嫌われていない」と淡々と返した義勇の頓狂な真顔。あの数分間のコミカルな応酬は、過酷を極める鬼殺隊の日常において、奇跡のような色彩を放っていた。
公式が提示した情報は、決して多くない。平野稜二による公式スピンオフ『冨岡義勇外伝』で描かれた、任務先で不器用に鮭大根を巡ってやり取りする姿など、関係の断片がわずかに示された程度だ。だが、この極度の節制こそが火種となった。饒舌に語られすぎた関係は想像の余地を奪う。口下手で感情表出を諦めた男と、常に笑顔の仮面を貼り付けて怒りを隠した女。互いに決定的な本心を打ち明ける時間などなかったという「余白」が、ファンの創作意欲を狂おしいほどに刺激し続けている。