ビジネスシーンで「甲斐がある」を用いる際、最も注意を払うべきは評価の主客関係です。「甲斐がある」という判断は本質的に「その行為を価値づける」上からの評価行為を含みます。
そのため、上司やクライアントに対して「部長がご指導くださった甲斐がありましたね」と発言すると、部下が上司の指導を採点・評価したことになり、無作法で失礼な物言いと受け取られます。目上の相手に対して用いる場合は、主語を自分自身に置き、相手への感謝や謙譲の形を取らなければなりません。
以下に、実務で失敗しないための言い換え例文を提示します。
NG表現:「連日残業した甲斐があって、目標達成できましたね」(同僚同士なら可だが、上司に対しては不適切)
適切な敬語変換:「連日ご指導をいただいたお陰で、無事に目標を達成することができました。尽力いたしました成果が実を結び、安堵しております」
NG表現:「苦労の甲斐がありました」(取引先に対して単独で述べる場合)
適切な敬語変換:「皆様の温かいお力添えを賜りました甲斐がございまして、プロジェクトを無事に完遂できました」
自分自身の努力を総括する場面では「苦労した甲斐がございました」と丁寧語で表現することは差し支えありませんが、ビジネス上の成果は関係者の支援があって成り立つものです。単に「甲斐があった」と言い切るのではなく、「〜のお陰で」「実を結び」といった謙虚さを担保する語彙を組み合わせることが大人のビジネスマナーです。