「皮膜が破れたコードに、家にあったビニールテープを巻いたら火花が散った」という事故報告は後を絶ちません。なぜ一般用ビニールテープを絶縁用途に代用すると発火に至るのか、その根本的な理由は材料化学と電気工学の相互作用から説明できます。
第1の要因は、可塑剤(かそざい)の移行と経年劣化によるベタつきです。ポリ塩化ビニル(PVC)は本来硬い樹脂であり、テープとしてしなやかさを出すためにフタル酸エステル類などの可塑剤が添加されています。一般工作用テープはコスト優先の配合がなされていることが多く、時間の経過や温度変化によって可塑剤が粘着剤層に染み出します。これが、古いテープを剥がしたときに手が汚れる「ドロドロのベタつき」の正体です。粘着剤が液状化してズレが生じると、保護していた銅線が露出してショートを引き起こします。
第2の要因が、絶縁破壊とジュール熱による熱分解です。導線同士が触れ合わなくても、電極間に高い電界がかかると、空気や絶縁材料の限界を超えて一瞬で電流が流れる「絶縁破壊」が発生します。一般工作用テープは厚みのムラや微小なピンホールが存在しやすく、家電製品の負荷電流(100V〜数十アンペア)に耐えられません。
さらに致命的なのが自消性の有無です。JIS C 2336認定の電気絶縁テープには難燃剤が練り込まれており、万が一ショートの火花(アーク放電)が触れても、火源が去れば自ら火を消す性質を持ちます。対して一般工作用テープは容易に着火し、炭化しながら激しく燃え広がります。ホコリが溜まりやすいコンセント周辺や壁裏でこれが起きると、瞬く間にトラッキング火災へと発展するのです。