猫の避妊手術における安静期間は、単一の区切りではなく「超急性期(当日〜48時間)」「組織癒合期(3〜7日目)」「安定完了期(8〜14日目)」という3つのフェーズに分解して把握する必要があります。動物病院の退院指導で単に「1週間ほど安静に」と告げられたとしても、日ごとに体内組織の修復プロセスは大きく変化しているからです。
一般的な開腹手術(卵巣摘出術または卵巣子宮摘出術)では、皮膚表面だけでなく、下層にある腹膜や白線(筋肉の結合組織)を外科用縫合糸で強固に結束しています。皮膚表面が閉じるスピードと、内側の筋膜が本来の強度を取り戻すスピードには時間差が存在します。臨床データ上、傷口の引っ張り強度が術前の約50%まで回復するには最低でも術後7〜10日間を要し、完全な組織再構築には数ヶ月のサイクルが働いています。
皮膚を糸で縫合して抜糸を行う従来法では、避妊手術抜糸までの日数は「術後10日前後」が黄金基準です。一方、近年スタンダードになりつつある埋没縫合(医療用接着剤や吸収糸を用いて皮膚の内部で縫い合わせる術式)の場合、通院での抜糸は原則不要です。ただし、「抜糸が不要=即座に普段通りの生活に戻して良い」という意味ではありません。溶ける糸の吸収期間はおよそ60〜90日であり、皮膚表面が密着したように見えても、急激なテンションがかかれば皮下組織が挫滅する恐れがある点には最大限の警戒を払う必要があります。