読書感想文の題材として森絵都の『カラフル』が選ばれ続け、コンクールでも審査員から高い評価を受ける最大の要因は、本作が内包する「完璧な人間など存在しない」という人間理解の深さにあります。多くの児童文学や推薦図書が道徳的な正しさや成長の美談を描きがちな中、本作は家庭崩壊、いじめ、不倫、援助交際といった思春期が直面する生々しい現実に真っ向から切り込んでいます。
物語の骨格を成すあらすじと相関関係を整理すると、その巧みな舞台設定が浮かび上がります。
前世で大きな過ちを犯して命を落とした「ぼく」の魂は、天使業界の抽選に当たり、再挑戦のチャンス(ホームステイ修行)を与えられます。案内人である天使プラプラに導かれ、自殺を図って意識不明の重体だった中学3年生・小林真の肉体に宿ることから物語は幕を開けます。真の生活を追体験する中で見えてきたのは、決して平穏ではない家族の暗部でした。母の不倫、父の事なかれ主義、冷淡でエリート志向の兄。さらに学校では内申点や受験の重圧、真が密かに想いを寄せていた後輩・桑原ひろかの援助交際、唯一の理解者と思われた佐野唱子の複雑な内面など、目を背けたくなるような現実が次々と突きつけられます。
しかし、修行の期限が迫る中、真として生きる「ぼく」は、他者の欠点や醜悪さの裏側にある哀しみや不器用さに気付き始めます。人は単色(善か悪か、白か黒か)で塗り分けられる存在ではなく、何色もの絵の具が混ざり合った「カラフル」な存在であるという発見です。この思春期における心理的脱皮と他者受容のプロセスこそが、読書感想文において「自己の内省」を深める最高の起爆剤として機能します。審査員が求める「読書を通じた自己の変容」を極めて自然に、かつドラマチックに言語化できる点こそが高評価の決定的な理由です。