浴場への扉を開けた瞬間、視界を覆う湯気とともに、強烈な揮発性成分の匂いが肺の奥まで届く。温泉というより、重機整備工場のピットに迷い込んだかのような錯覚。湯口からドバドバと注がれる湯は、かつての南黒川温泉の地下深く、太古の堆積層に閉じ込められた化石海水と天然ガス、石油成分をたっぷりと孕んでいる。
湯船に身体を沈めると、まず感じるのは凄まじい熱量と、肌をぬるりと包む独特の油膜感だ。成分総計は極めて濃密。ナトリウム―塩化物強塩温泉という分類だが、そんな無機質な記号ではこの湯の狂暴さを説明しきれない。湯口からすくった湯を口に含むと、塩辛さとヨードチンキを煮詰めたようなエグ味が舌を麻痺させる。誰にでも勧められる湯ではない。だが、皮膚からじわじわと成分が侵入してくる感覚は、一度ハマると逃れられない魔力を持っている。