理論の理解を確固たる得点力へと昇華させるため、典型的な計算例題を通じて具体的なアプローチを確認してみましょう。
【例題】
ある構造要素の平面的応力状態において、$\sigma_x = 80\,\mathrm{MPa}$(引張)、$\sigma_y = 20\,\mathrm{MPa}$(引張)、$\tau_{xy} = 40\,\mathrm{MPa}$ が作用している。このときの主応力($\sigma_1, \sigma_2$)、最大せん断応力($\tau_{\max}$)、および最大主応力面の傾き$\theta_p$を求めよ。
【解答手順】
- 中心座標$C$の計算: $$C = \frac{\sigma_x + \sigma_y}{2} = \frac{80 + 20}{2} = 50\,\mathrm{MPa}$$
- 半径$R$(最大せん断応力)の計算: $$R = \sqrt{\left(\frac{80 - 20}{2}\right)^2 + 40^2} = \sqrt{30^2 + 40^2} = \sqrt{900 + 1600} = 50\,\mathrm{MPa}$$ したがって、最大せん断応力 $\tau_{\max} = 50\,\mathrm{MPa}$。
- 主応力の決定: $$\sigma_1 = C + R = 50 + 50 = 100\,\mathrm{MPa}$$ $$\sigma_2 = C - R = 50 - 50 = 0\,\mathrm{MPa}$$
- 主応力面の角度の決定: 円上での中心$C(50, 0)$から点$X(80, 40)$へ向かうベクトルの傾き角$2\theta_p$を求めます。 $$\tan 2\theta_p = \frac{2\tau_{xy}}{\sigma_x - \sigma_y} = \frac{2 \times 40}{80 - 20} = \frac{80}{60} = \frac{4}{3} \approx 1.333$$ 逆正接関数を引くと $2\theta_p \approx 53.13^\circ$ となるため、実空間における主応力面の傾きは $\theta_p \approx 26.57^\circ$(反時計回り)と求まります。
複雑な応力テンソル計算をすることなく、中学生レベルの三平方の定理($3:4:5$の直角三角形)だけで主応力が完全に見通せることが実感できるはずです。
三次元への拡張:三軸応力状態のモールの応力円
現実の機械部品や地下深くの地盤は二次元ではなく、3方向すべてに応力が存在する「三軸応力状態」にあります。この場合、3つの主応力を $\sigma_1 \ge \sigma_2 \ge \sigma_3$ と順序付けたとき、応力円は1つではなく3つの円(3重円)によって表現されます。
部材内のあらゆる任意の傾斜面に作用する応力状態$(\sigma, \tau)$は、この3つの円の境界線上、あるいは3つの円に囲まれた「三日月形の領域の内部」に必ず存在します。特筆すべきは、部材全体を支配する真の最大せん断応力は、中間の主応力$\sigma_2$には依存せず、最大主応力と最小主応力の差によって決まるという事実です。
$$\tau_{\max, \mathrm{absolute}} = \frac{\sigma_1 - \sigma_3}{2}$$
二次元平面の計算だけで満足し、面外応力(例えば内圧を受ける薄肉円筒における厚み方向のゼロ応力)を考慮から外すと、最大せん断応力を見誤って過小設計に陥るリスクがあります。実務設計においては常に3次元の視野を保持することが不可欠です。