右の肋骨周辺を押した際に走る痛みに関して、患者が最も恐れるのは右肋骨の下が痛い肝臓がんの可能性でしょう。しかし、消化器病専門医の臨床知見を総合すると、初期の肝臓がんが「指で押したときの痛み」として自覚されるケースは極めて例外的です。肝臓の実質組織には痛覚神経が存在せず、病変が数センチ規模に増大して肝臓の表面を覆う「グリソン鞘(肝被膜)」を物理的に押し広げるか、周囲の横隔膜・腹膜へ浸潤して初めて鈍痛が生じるためです。
では、なぜ押すと痛むのか。その決定的な理由として浮上するのが、解剖学的に肋骨の直下に位置する胆嚢の炎症、肋骨を取り巻く神経・骨軟骨の障害です。とりわけ右肋骨を押すと痛い危険な理由として救急医療の現場で警戒されるのは、胆石が胆嚢管に嵌頓して起きる急性胆嚢炎です。この場合、医師が右肋骨下縁を圧迫しながら患者に深呼吸を促すと、痛みのあまり息が止まる「マーフィー徴候(Murphy's sign)」と呼ばれる特徴的な所見が現れます。
一方で、悪性腫瘍が直接的な痛みの引き金となるケースもゼロではありません。特に注意を要するのががん肋骨転移の自覚症状と経緯です。乳がん、肺がん、前立腺がんなどの既往がある場合、血流に乗ったがん細胞が骨髄に生着し、骨膜を刺激することでピンポイントの強い圧痛や自発痛を引き起こします。「ただの筋肉痛だと思っていたら骨転移による病的骨折だった」という事例は臨床現場でも報告されており、過去のがん治療歴の有無は極めて重要な判断材料となります。