かつて熱海の夜を彩った映画館「ロマンス座」の閉館から数十年。そのエントランスの「角(カド)」に位置するスペースを改装して誕生したこの拠点は、大規模な改修を経てさらなる進化を遂げた。今回のリノベーションで特筆すべきは、単なる美観の刷新ではなく、建物の記憶そのものを空間デザインの主役に据えた点だ。
剥き出しになったモルタルの壁面板には、かつて上映告知ポスターが幾重にも貼り重ねられていた痕跡が特殊な樹脂加工で封じ込められている。天井を見上げれば、当時の配線管や梁がそのままのリズムで並ぶ。過去の遺構を覆い隠すのではなく、傷跡すらも意匠として昇華させる手法は、近年の空間デザインにおけるひとつの到達点と言える。
関係者への取材によれば、館内の奥深くに眠っていた旧映写室エリアをパブリックとプライベートの境界を曖昧にする「オープンラボ」として再構成。映画鑑賞のみならず、クリエイターが滞在制作を行えるレジデンス機能の拡充も完了し、街に開かれた文化の発信基地としての輪郭が完全に整った。