眼部帯状疱疹の治療で明暗を分けるのは、発疹が現れる前後の「わずかな異変」をどれだけ早く察知できるかです。多くの患者が初期の段階で共通して口にするのが、皮膚症状のない段階から始まる目の痛みの前兆です。
水ぶくれが現れる2〜5日前から、片側の額、目の奥、こめかみ周辺に「ピリピリとした痺れ」「ズキズキと脈打つような頭痛」「チクチク刺されるような熱感」が先行します。この段階では皮膚に何も変化がないため、「酷い眼精疲労」「偏頭痛」「三叉神経痛」と自己判断して見過ごされるケースが後を絶ちません。白目の充血やまぶたの重み、光をやたらと眩しく感じる羞明(しゅうめい)も初期の警戒シグナルです。
数日遅れて皮膚に赤い斑点や小水疱(水ぶくれ)が出現しますが、ここで医師が最も注視する決定的な身体所見が存在します。それがハッチンソン徴候(Hutchinson's sign)と呼ばれる現象です。
ハッチンソン徴候とは、「鼻先(鼻尖部)や小鼻、鼻の側面に発疹や水ぶくれが出ている状態」を指します。なぜ鼻の頭のブツブツが目の危機を告げるのでしょうか。解剖学的に、眼神経の枝分かれの一つである「鼻毛様体神経」は、鼻先と同時に眼球の最も重要なパーツである角膜や毛様体、虹彩の知覚神経を担っています。つまり、鼻先に皮疹が出ているということは、ウイルスが鼻毛様体神経を通過して眼球内部へ侵入している決定的な証拠となるわけです。
臨床データ上、ハッチンソン徴候が陽性の場合、陰性の患者に比べて眼球合併症を併発するリスクが3〜4倍(約76〜85%)に達することが判明しています。もし目の周囲の痛みに加えて鼻先や鼻筋に赤みや水ぶくれを認めたら、一刻の猶予もないエマージェンシーサインと認識しなければなりません。