今日の映画業界において、ドゥニ・ヴィルヌーヴの名を知らない者はいない。しかし、彼が長編映画の第一歩を踏み出した背景には、カナダ国立映画庁(NFB)の存在があった。短編映画やドキュメンタリーで培われたリアリズムと、独自の美的センスが見事に融合した本作は、当時のモントリオール派映画の中でも一際異彩を放っていた。
特に圧巻なのは、主演パスカル・ブシエールの佇まいだ。極限状態に置かれた女性の内面を、過度な感情表現を排して演じきった彼女のパフォーマンスは、カナダ映画賞(ジニー賞)で主演女優賞を獲得。彼女の無機質でありながら情熱を内に秘めた存在感がなければ、この難解な物語が説得力を持つことはなかっただろう。
画面を包み込む「圧倒的な静寂」と「広大な風景のコントラスト」は、後の『メッセージ』や『ブレードランナー 2049』、そして『デューン』へと一直線に繋がっている。ヴィルヌーヴの全貌を理解する上で、本作は絶対に避けて通れない原点なのだ。