発熱からわずか数時間後の出来事だった。どこにでもある「冬の風邪」だと思われていた高熱が、突如として脳全体を激しい炎症の渦に巻き込んだ。意識喪失、止まらないけいれん、そして集中治療室での緊迫した救命措置。医療陣の死力を尽くした治療によって命の危機は脱したものの、脳に刻まれたダメージは深く、彩花さんには重度の運動障害と知的障害という重い後遺症が遺された。
インフルエンザ脳症は、ウイルスそのものの侵入に加え、過剰な免疫反応が引き起こすサイトカインストームなどが複雑に絡み合い、脳に急速な浮腫を生じさせる難症だ。発症頻度こそ極めて稀であるものの、発症した場合の致死率や重大な後遺症の残存率は非常に高い。当たり前だった日常が一瞬で奪い去られる恐ろしさを、彩花さんの症例は世の中に警鐘として突きつけた。