写真の中でも、とりわけ不満の声が大きいのがスマートフォンによる「自撮りと鏡の顔の差」です。この現象には、光学的なレンズ設計と脳の処理アルゴリズムがダイレクトに関係しています。
スマートフォンのインカメラは、腕を伸ばした狭い距離(約30〜40cm)で上半身を画角に収めるため、焦点距離20〜24mm相当の広角レンズが標準採用されています。広角レンズには「レンズに近いものが極端に大きく、遠いものが小さく写る」という強烈な遠近感歪みが生じる特性があります。そのため、顔の中央にある鼻や顎先が横に肥大化し、奥にある耳やエラが小さく後退して写ってしまいます。
さらに人間の「脳の補正と錯覚」も見逃せません。鏡を見るとき、人間は自分の好みの角度に自然と首を傾け、無意識に瞳孔を開き、キリッとした「決め顔」を作っています。しかも鏡は両眼視(3D)であり、まばたきや視線の揺らぎを含む連続した「動画」として脳内統合されます。一方、写真は一瞬の不意打ちを切り取った2D静止画であり、照明の影が顔のシワや左右差を容赦なく固定化します。「鏡の自分の方がマシに見える」のは、鏡が嘘をついているのではなく、鏡を見ているときの自分のコンディションが物理的・心理的に最高潮に保たれているからなのです。