日本国内で医師の立ち会いなく人が死亡した場合、その遺体はすべて「変死体」またはその疑いがあるものとして警察に届け出られます。刑事訴訟法第229条に基づき、犯罪に起因する死亡かどうかを確かめるために行われる手続きが「検視」です。この重大な現場判断を一手に担うのが、主に都道府県警察本部の刑事部捜査第一課に所属する検視官です。
通報を受けた所轄警察署からの要請により、検視官は鑑識係員らを率いて直ちに現場へ臨場します。現場に到着すると、遺体の着衣の乱れ、首や手足に残された鬱血・皮下出血、死斑の出方、死後硬直の度合い、体温の低下具合、瞳孔の状態などをミリ単位で細かく観察します。遺体そのものだけでなく、室内の荒れ具合や遺留品、動線に至るまで徹底的な検証を実施します。
現場での確認を終えた後、検視官は「検視調書」を作成します。この調書には、死体の状況、創傷の有無、着衣や所持品、周囲の状況などが詳細に記録され、事件性(他殺)があるのか、あるいは自殺・不慮の事故・内因性急死(病死)なのかという最終判断が下されます。検視官が「事件性あり」と判断すれば即座に殺人事件としての捜査本部が立ち上がり、「事件性なし」と判定されれば所轄による行政手続きへと移行します。一瞬の判断ミスが凶悪事件の隠蔽や冤罪に直結するため、極めて重大な職責です。