新潟の山中に残された異形の建築群は、歳月の経過とともに多くの都市伝説・ミステリーを生み出す格好の標的となった。「誰もいない聖堂からパイプオルガンの音が聞こえる」「夜間になると姿を消すマトリョーシカ人形がある」「かつて逃亡者の隠れ家として使われていた」といった噂は、ネット掲示板や口コミを通じて全国へと拡散した。
こうした噂に拍車をかけたのが、2009年に発生した正体不明の不審火事件である。かつて滞在型リゾートとして使われていたホテル施設の一部が深夜に炎上し、山腹を赤く染めた。警察による捜査が行われたものの、出火原因の確定には至らず、この火災自体が「祟り」や「怪異」と結びつけて語られることとなった。
だが、ジャーナリズムの視点で現場の歴史を紐解けば、真相はいたって現実的かつ無情である。パイプオルガンの音は風が破損した窓や天井の隙間を吹き抜ける際の気笛現象であり、人の気配や火災の正体は、セキュリティが不十分だった時代に不法侵入を繰り返していた若者や侵入者による火の不始末・放火が原因である可能性が極めて高い。怪異の正体は、放置された文化遺構が引き寄せた人間の無秩序な行動そのものだったのだ。