なぜスピードスキーはこれほどまでに危険視されるのか。その本質は「空気抵抗」と「摩擦熱」にあります。
時速250kmで滑走している状態では、受ける風圧は台風の猛烈な暴風を遥かに凌駕します。クラウチング姿勢を保っている間は風を切り裂いて進めますが、もしわずかでも頭を上げたり腕を開いたりすると、風圧が巨大な壁となってスキーヤーの体を一気に跳ね上げます。スキー板の先端(トップ)にわずかでも空気が入り込めば、揚力によって人間が空中に吹き飛ばされる危険があるのです。
さらに恐ろしいのが転倒時の摩擦です。雪面といえども、時速200km以上で身体を擦り付けると、アスファルトの上を滑るのと同等の強烈な摩擦熱が発生します。専用スーツを着用していても、雪面との摩擦でスーツが瞬時に溶解し、皮膚に深刻な重度火傷や裂傷を負うケースが少なくありません。衝撃を吸収するエアバッグやロールケージのない生身の人間にとって、転倒は致命傷を意味します。