夜尿症を正しく理解するには、精神論や俗説を排し、身体の中で起きている生理現象を正確に把握しなければなりません。日本小児泌尿器科学会の定義では、「5歳以降で、月1回以上の夜尿が3カ月以上続く状態」を夜尿症と呼びます。7歳児における有病率は約10%前後と推計されており、決して珍しい疾患ではありません。
夜尿症の医学的原因は、単一の要素ではなく、主に以下の3つのメカニズムの組み合わせによって生じます。
まず挙げられるのが、抗利尿ホルモンの分泌不足です。人間は通常、就寝中に脳の下垂体から「バソプレシン」と呼ばれる抗利尿ホルモンが大量に分泌され、夜間に作られる尿の量を日中の半分から3分の1程度に濃縮・減少させます。ところが夜尿症の子どもの多くは、体内時計や自律神経系の成熟が途上にあるため、夜間になってもバソプレシンの分泌量が増加しません。結果として昼間と同じペースで薄い尿が大量に作られ、膀胱の許容量をオーバーしてしまいます。
次が「夜間膀胱容量の低下」です。睡眠中に膀胱が過敏に収縮してしまい、本来日中にためられる尿量よりも少ない量で勝手に排尿反射が起きてしまう状態を指します。
そして決定打となるのが「覚醒障害」です。通常の成熟プロセスを経た身体であれば、膀胱が満水に近づくと、求心性神経を通じて脳幹の青斑核や大脳皮質へシグナルが送られ、「尿意で目が覚める」という覚醒反応が起こります。しかし夜尿症の子どもは、睡眠覚醒中枢の興奮伝達がブロックされ、強固な深い睡眠から覚醒することができません。どれほど揺すっても起きないほどの深い眠りの中で、無意識に排尿中枢の抑制が外れて漏れ出てしまう構造です。