海外旅行先のカフェや欧米圏のレストランで「シュークリームをください」と注文しても、店員が怪訝な顔を浮かべるケースは後を絶ちません。それもそのはず、シュークリームという呼び名は、フランス語の「シュー(chou)」と英語の「クリーム(cream)」を無理やりドッキングさせた、日本独特の和製英語だからです。
英語圏でこのスイーツを指す正しい表現は「クリームパフ(cream puff)」です。「パフ(puff)」とは、ふわりと膨らんだものやすじ雲、粉白粉のパフなどを指す言葉であり、膨らんだ軽快な生地の中にクリームを詰めた洋菓子を端的に表しています。さらに、英語ネイティブの耳には「シュー(chou)」の発音が靴を意味する「shoe」とまったく同じに聴こえるため、「shoe cream(革靴用の保革クリーム・靴墨)」を注文しているように受け取られてしまうという、決定的な言語の罠が存在します。
日米欧における呼称と受容の違いを整理すると、文化圏による命名思想の相違が鮮明になります。
このように、日本では明治期以降に海外の文化を急速に吸収する過程で、フランス語の響きの優雅さと、英語の親しみやすさをハイブリッドに接合させて「シュークリーム」という独自の言葉を作り出しました。言語学的なハイブリッド現象が、100年以上の時を経て完璧に定着した好例と言えます。