ネットの口コミで散見される「黒門市場 ぼったくり」という過激なキーワード。しかし、法的な意味での詐欺や不当請求が行われているわけではありません。それにもかかわらず、なぜこれほどまでに「黒門市場は高すぎる」という猛烈な反発が巻き起こったのでしょうか。その真相を紐解く鍵は、インバウンド急増の歴史的経緯とコスト構造の変化にあります。
歴史的に黒門市場は、高級料亭や割烹が買い出しに来る「プロ御用達の専門店街」でした。フグやハモ、天然マグロ、最高ランクの和牛といった最高級品を取り扱う素地がもともと備わっていたのです。2010年代半ばから急増したインバウンド観光客に対し、一部の鮮魚店や精肉店が「最高級食材をその場で捌き、一口サイズで鉄板焼きにして提供する」というファストフードスタイルを導入したことで爆発的なヒットを記録しました。
この業態転換が、価格の急激な上昇感を生み出しました。プロ向けに卸していたキロ単位の食材を、外国人観光客向けに1本ずつの串焼きや小分けパックに加工して提供する際、人件費、店頭調理の設備費、外国語対応スタッフの雇用コスト、さらに観光地化に伴うテナント料の高騰がダイレクトに上乗せされたのです。
円安傾向が続く海外旅行者にとって、「最高級の神戸牛串が1本3,000円」「生ウニが1個2,500円」という設定は、母国の高級和食店で食べる数分の一の感覚であり、飛ぶように売れました。しかし、昭和の情緒残る庶民的な下町商店街の金銭感覚(たこ焼き1舟数百円、定食千円未満)を期待して訪れた日本人旅行者や地元客の目には、それが「法外な便乗値上げ=ぼったくり」と映ったわけです。つまり、提供側が設定した「インバウンド向け体験型プレミアム価格」と、国内消費者が抱く「大阪の安くて美味い商店街像」との致命的なミスマッチこそが、高すぎる批判の構造的な正体でした。