ドラマにおいて「野に咲く花のように」のメロディとともに繰り返された「兵隊の位で言うと…」「お、おにぎりが食べたいんだな」という印象深いセリフは、脚本家や演出家による創作が多分に含まれています。実際の山下清は、より合理的かつ計算された生存本能に従って行動していました。
彼が民家におにぎりを乞うた理由は、極めてシンプルに「保存が利き、空腹をすぐに満たせるから」でした。当時の手記には生々しい本音が綴られています。
「めしを貰うときは、親切そうな奥さんのいる家を選ぶ」「威張った男の人が出てくる家は避ける」「おにぎりを貰ったら、その場で食べずにお礼を言ってから別の場所でゆっくり食べる」といった独自のルールを確立していました。ドラマのような純朴で世間知らずな姿とは異なり、過酷な戦中・戦後の社会を生き抜くための鋭い観察眼と知恵を張り巡らせていたことが伺えます。