河村の単独犯行であれば、ここまで捜査が難航することはなかった。事態を極限までカオスに陥れたのは、木幡由実(通称・バタコ)と本木陽香というふたつの強烈な異分子の介入だ。
新興宗教「かがやきの世界」に傾倒していたバタコは、失った実の息子の面影を篤斗に重ね、独自の妄想から篤斗を誘拐・洗脳した。冷凍遺体を凌介の職場に送りつけるという猟奇的な行動もバタコの暴走によるものだ。一方、葬儀社に勤める本木陽香は、光の恋人である橘一星への病的な執着から光を監禁し、事態をさらに錯綜させた。これらの独立した犯罪が「相良一家失踪」というひとつの事件の影に隠れて同時多発したことが、本作のミステリーとしての強度を桁違いに高めていた。