魚籃坂(魚らん坂)の正しい読み方は「ぎょらんざか」です。難読地名の一つに数えられることもありますが、港区の設置した案内標識や公的文書では「魚籃坂」と表記され、バス停や交差点名、周辺店舗などでは親しみやすさを込めて平仮名交じりの「魚らん坂」と表記されるケースが多く見られます。
この特異な名称の由来は、坂の中腹に位置する浄土宗の寺院「三念山 魚籃寺(ぎょらんじ)」にあります。魚籃寺は元和年間(1615〜1624年)、長崎から江戸へと渡ってきた僧・日誉上人が開山したと伝えられています。寺の象徴であり本尊である「魚籃観世音菩薩(魚籃観音)」は、唐の時代に中国・江南地方で魚を売る美しい乙女の姿で現れ、人々を仏道に導いたという観音菩薩の化身伝承に基づいています。
竹籠(籃)に大魚を入れた姿の観世音菩薩像は日本国内でも極めて珍しく、江戸時代には海上安全や大漁祈願、さらには商売繁盛や所願成就を祈る町民・武士の信仰を広く集めました。この魚籃寺の門前へ上る坂道であったことから、自然発生的に「魚籃坂」と呼ばれるようになり、幕府の地誌や古地図にもその名が刻まれることとなりました。