ゲイシャのような植物学的・テロワール的なアプローチとは対極に位置するのが、動物の消化器官を利用したアニマル・プロセスだ。インドネシア伝統のコピ・ルアク(Kopi Luwak)は、完熟したチェリーのみを選別して食べるジャコウネコの腸内細菌と胃液による発酵作用で、独特のまろやかな口当たりとカラメルのような甘みを引き出す。
さらに高額な取引が行われているのが、タイ北部の保護施設で生み出されたブラック・アイボリー(Black Ivory Coffee)である。ゾウにコーヒーチェリーをバナナやサトウキビと共に食べさせ、数日かけて体内でゆっくりと消化・発酵させる。ゾウの消化酵素がコーヒーの苦味成分であるタンパク質を徹底的に分解するため、渋みが完全に消え去り、チョコレートやスパイスを思わせる驚くほど滑らかな液体に仕上がる。生豆1kgを回収するために33kgものチェリーが必要とされ、年間の生産量も極めて限定的なため、100gあたり数万円、五つ星ホテルのラウンジでは1杯1万5,000円以上の高値で提供されている。