多くの人が誤解している最大の盲点が、「自分が意思表示カードや運転免許証の裏面で『臓器を提供する』に〇をつけていれば、死後に必ず提供される」という思い込みです。現行の臓器移植法における家族承諾の壁は極めて強固に設計されています。
2010年の改正臓器移植法によって、本人の意思が不明な場合でも家族の承諾があれば脳死下での臓器提供が可能になりました。しかしその一方で、「本人が提供を希望していても、家族が1人でも強硬に反対した場合は提供を行わない」という現場の厳格な運用基準が存在します。実質的に、遺された家族には「臓器提供に対する拒否権」が与えられている状態です。
脳死判定や臓器摘出の現場では、深い悲しみと動揺の中にある家族に対して過度な心理的負担を強いることは倫理的に許されません。意思表示カードへの家族の同意や生前の十分な話し合いがないまま突然の事態を迎えると、家族は「本人の遺体を傷つけたくない」「まだ心臓が動いているのに諦めたくない」という強い拒絶反応を示し、本人の遺志が結果的に覆されてしまうのが医療現場の偽らざる実態です。