優美な洋風橋から公園の奥へと歩みを進めると、人工的な喧騒から完全に遮断された静寂の空間が広がります。そこにひっそりと水を湛えているのが、公園の名前の由来にもなった「長池」です。農業用のため池として江戸時代以前から機能してきたこの池には、古くから哀切な「浄瑠璃姫伝説」が語り継がれています。
伝承によると、戦国時代(または南北朝期とも伝わる)、八王子の由井の領主であった小田野城主の娘・浄瑠璃姫は、美しく聡明な姫として知られていました。しかし、敵方の夜襲によって城は落城。姫は追手を逃れ、一族の菩提を弔うために肌身離さず持っていた13体の黄金の薬師如来像を抱えて、この長池の深みに身を投じたとされています。
インターネット上の一部オカルトサイトでは「八王子の心霊スポット」「池に近づくと怪異が起きる」といったセンセーショナルな噂が散見されますが、これは完全な誤解と誇張です。現地の長池は、自然生態系を保護するために現在フェンスで厳重に囲われており、一般の立ち入りが制限された静謐な聖域となっています。
八王子市の郷土史料や公園管理に携わる関係者の調査によれば、この伝説は落城の悲劇を悼み、豊かな水を供給してくれる水源への畏敬の念を結びつけた民俗学的な鎮魂の物語です。姫の菩提を弔うために建てられた薬師堂が近隣の薬師池公園周辺に伝わるなど、地域のアイデンティティとして大切に受け継がれてきた歴史があります。安易な恐怖譚として消費するのではなく、武蔵野の武士と農民たちが抱いた祈りの痕跡として捉えるのが正しい歴史的視座です。