何百年もの風雪に耐え、巨大地震を何度も経験しながら、日本の木造五重塔が地震で倒壊した記録は歴史上ほとんど確認されていません。この驚異的な耐震性の鍵を握るのが、寺院建築免震構造の根幹である五重塔心柱構造です。
五重塔の中心には、基礎から最上部の相輪までを一本で貫く巨大な木柱「心柱(しんばしら)」が設置されています。しかし、この心柱は建物の重量を支える柱ではありません。周囲の各層の柱や梁とは強固に結合されておらず、構造的に独立した状態で配置されています。
大地震が発生して地面が激しく揺れると、積み木のように重ねられた各階層がそれぞれ異なる周期で左右互い違いに揺れ動きます。これを建築用語で「スネークダンス(蛇踊り現象)」と呼びます。各層が擦れ合うことで地震エネルギーが摩擦熱として分散され、建物全体の共振が防がれます。
さらに、中心にある心柱が振り子の役割を果たし、建物の揺れと逆方向に動くことで揺れを打ち消す「マスダンパー(制振装置)」として機能します。この先人たちの知恵は現代の建築工学にも直結しており、自立式電波塔として世界一の高さを誇る「東京スカイツリー」の制振システムにも、五重塔の心柱のメカニズムを応用した「心柱制振」が採用されています。