戦国史において最も風魔の名を轟かせたのは、天正8年(1580年)の黄瀬川の戦いにおける対武田勝頼戦だ。夜陰に乗じて敵陣深く潜入し、馬の綱を切り、放火して大混乱を引き起こす。敵の陣営を内部から自壊させるその手法は、現代で言う特殊作戦(スペシャル・オペレーションズ)そのものだった。
「夜嵐」と呼ばれた彼らの奇襲は、闇雲な武力行使ではない。極限状態における兵士の心理を徹底的に観察し、恐怖心を集団の中で増幅させる音と火の使い方が緻密に計算されていた。静寂を破る突如の怒号、意図的に流される偽情報。敵は自らの影に怯え、味方同士で切り結ぶ惨劇へと追い込まれた。