『おおかみこどもの雨と雪』の舞台設計は、前半の都市生活を描いた「東京都西部」と、後半の田舎暮らしを描いた「富山県東部」の2つの主要エリアで構成されています。細田守監督は自身の原体験や徹底した現地ロケハンを反映させ、現実の地理感覚をストーリーの心情変化と巧みにリンクさせました。
物語序盤、女子大生だった花と「おおかみおとこ」が出会う大学のキャンパスは、東京都国立市にキャンパスを構える一橋大学(国立キャンパス)がモデルです。兼松講堂をはじめとするロマネスク様式の重厚な歴史的建造物や、春の桜並木が印象的な大学通り、国立駅周辺の街並みがほぼそのままの構図でスクリーンに登場します。都会の片隅で静かに愛を育む二人の空気感が、武蔵野の落ち着いた景観によって美しく表現されています。
一方、おおかみおとこの死後、人目を避けて子どもたちを育てるために移住を決意した新天地が、監督の故郷である富山県上市町です。標高2,999メートルの剱岳を仰ぎ見るこの地は、豊かな水源と険しい山林に囲まれ、厳しい自然と共生する親子のドラマを描く上で必然の舞台となりました。さらに、富山県立図書館や立山連峰、落差日本一を誇る称名滝など、富山を象徴する雄大な名所が物語の要所で象徴的な役割を果たしています。