「閉店時間になると『蛍の光』が流れる」という認識は、日本人の間に深く根付いている最大の思い込みの一つです。原曲のメロディライン自体はスコットランド民謡の『オールド・ラング・サイン(Auld Lang Syne)』をルーツとしており、耳馴染みのある旋律である点に違いはありません。
決定的な違いは楽曲の「拍子(リズム)」と「編曲」にあります。日本の学校教育や卒業式で歌い継がれてきた『蛍の光』は、行進曲のように規則正しい「4拍子(4/4拍子)」で構成されています。これに対して、商業施設のフロアに流れる音源に耳を澄ませてみると、ゆったりと身体が揺れるような「3拍子(3/4拍子)」のワルツ調で演奏されていることに気づくはずです。
日本国内の店舗で閉店BGMとして普及している音源の正体は、1949年に日本コロムビアから発売された『別れのワルツ(編曲:古関裕而)』です。長年「蛍の光」と誤認され続けながらも、実際にはワルツのリズムが日々の営業終了を告げる合図として機能してきました。