なぜクモはそこまでして死を恐れ、不老不死を追い求めたのか。その真相は、生命の円環(バランス)を否定する歪んだ自尊心にある。世界の均衡が崩れ、疫病や災厄が流布する世界の中で、クモだけが自分自身の死を絶対に認めようとしない。
不老不死を得るために彼が選んだ手段は、生者の世界と死者の世界を隔てる境界線を破壊することだった。黄泉の国の扉を開くという行為は、世界全体の命の循環を止めてしまう暴挙にほかならない。命には終わりがあるからこそ尊いという、ゲドが唱える理をクモは真っ向から否定する。
物語のクライマックス、命の秘薬を注ぎ込まれ、正気を失い肥大化していくクモの姿は、執着に囚われた人間の末路を残酷なまでに描き出している。死を回避しようとする狂気こそが、最も醜い形で自身を破壊するというアイロニーがそこに刻まれている。