なぜ旧制度ではこれほどまでに失踪者が相次いだのか。現場の取材を重ねると、単なる「賃金の高低」だけでは片付けられない、ブローカーによる多額の手数料ビジネスと職場の密室性が浮き彫りになります。
東南アジア出身のある元実習生の手記には、次のような生々しい告白が残されています。
「来日するために現地の送り出し機関へ支払った手数料は日本円で約100万円。母国の年収の3倍以上にあたる借金を背負って来日しました。しかし配属された地方の縫製工場では、手取り月給が11万円程度。毎日怒鳴られ、パスポートも預かられ、逃げ場がなかった。借金を返すためには、夜中に抜け出して不法就労のコミュニティを頼るしかなかったのです」(取材時の証言手記より要約)
一方で、地方の中小製造業や農家の経営者側にも切実な事情が存在します。地方都市の金属加工メーカー社長は、公の記者会見やインタビューでこう漏らしています。
「日本人を募集してもハローワーク経由で半年間応募ゼロ。技能実習生に来てもらわなければ工場を閉めるしかなかった。新制度で転籍が自由化されると、せっかく日本語や技術を一から教え込んだ人材が、給与の高い東京や大阪の大手工場へすぐに引き抜かれてしまうのではないかという恐怖がある」(中小企業経営者の証言)
失踪問題の根底にあったのは、「多額の初期負債を抱えた実習生」と「育成投資を回収したい受入れ企業」の利害が、転籍不可という足かせによって歪んだ形で衝突していた構造です。育成就労制度における転籍要件の緩和と送り出し費用の透明化は、まさにこの長年の人権的急所を外科手術するための措置といえます。