『ハナミズキ』の制作背景を語る上で避けて通れないのが、2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ事件です。当時、デビュー前の一青窈は、かつてニューヨークで生活を共にしていた大切な友人からの安否確認メールや、テレビ画面に映し出される崩壊の映像に凄まじい衝撃を受けました。
報道関係者の取材や本人の手記によると、事件直後にノートへ書き殴られた言葉は、テロリストに対する激しい憤りや、報復攻撃へと舵を切る国際社会への絶望に満ちた生々しい叫びだったといいます。当初の歌詞案は「テロリストに対する報復の連鎖を止めたい」という強い怨嗟と悲哀が渦巻く極めて攻撃的なトーンを帯びていました。
しかし、一青窈は自問自答を繰り返します。「憎しみに憎しみで返せば、果てしない争いの波は永遠に止まらない」。彼女は数週間にわたり言葉を推敲し、個人的な怒りを昇華させながら、すべての人が共有できる「平和への願い」へと詩を研ぎ澄ませていきました。作曲を手掛けたマシコタツロウのどこか懐かしく温かい旋律、そしてプロデューサー武部聡志による繊細なアレンジが融合し、2004年2月、5枚目のシングルとして世に送り出されたのが『ハナミズキ』でした。