ネット上で頻繁に話題となる「パラオでは日本語が公用語」という言説には、制度上の事実と実用上のギャップという2つの側面が存在します。結論から言えば、パラオ共和国全体の憲法で定められた国家公用語はパラオ語と英語(一部地域でソンソロール語・トビ語)であり、国全体で日本語が公認されているわけではありません。
ではなぜ「公用語」という話が広まったのか。その鍵を握るのが、パラオ最南端に位置するアンガウル州憲法第12条の規定です。同条文には、伝統的言語であるパラオ語、世界共通語である英語と並び、明確に「日本語(Japanese)」が州の公用語として列挙されています。地方自治体の憲法とはいえ、外国の公的文書に日本語が公用語として規定されている例は世界でも極めて異例です。
しかし、公用語規定の背景を取材すると、行政文書が日本語で作成されているわけではない実態が見えてきます。アンガウル州で日本語が条文に組み込まれた主な要因は、かつて日本統治時代にリン鉱石の採掘拠点として栄え、多数の日本人技術者や労働者が移住した歴史的記憶と、日本に対する敬意・友好の象徴としての意味合いが極めて強いと分析されています。現在のアンガウル州において、行政窓口や法廷で日本語のみによる手続きが行われているわけではなく、あくまで「歴史的な絆を象徴する法的モニュメント」としての側面が実態です。