言葉の正誤以上に深い問題は、なぜ私たちはこれほど容易に固定観念の檻に閉じ込められてしまうのかという点です。認知心理学および脳科学の研究によると、固定観念の形成は人間の脳が持つ生存本能と直結しています。
人間の脳は、体重の約2%の重量でありながら基礎代謝の約20%のエネルギーを消費する大食漢の器官です。そのため、目の前の事象を一から論理的に思考することを避け、過去のパターンに当てはめて瞬時に処理しようとする「認知的省力化(ヒューリスティクス)」の仕組みが備わっています。固定観念とは、脳が生き残るために編み出した情報圧縮システムそのものなのです。
しかし、この省力化システムは時に大きな罠を生み出します。代表的なものが「確証バイアス」です。自分の信じている固定観念に合致する情報ばかりを無意識に集め、反証となる都合の悪いデータを無視してしまう心理傾向を指します。「ベテランの勘が最も正しい」「このやり方以外では失敗する」といった思い込みは、確証バイアスによって日々補強され、組織のイノベーションを阻害する最大の要因となります。