岩崎弥太郎という男の野心からすべては始まった。土佐藩の地下浪人という最下層から這い上がった弥太郎は、明治維新の混乱期に九十九商会を引き継ぎ、政商としての道を切り拓く。台湾出兵や西南戦争における軍需輸送を一手に引き受け、莫大な利益を叩き出した。海を制する者が国を制する。その確信のもと、海運・造船業を軸に据えた強引な事業拡大は、競合を容赦なく駆逐していった。
官営長崎造船所の払い下げを受けたことは、決定打となった。船を動かす海運業から、巨大な鉄の船を自前で造り出す重工業への転換。燃料となる石炭を確保するために高島炭鉱をはじめとする鉱山開発へも手を広げた。川上から川下までを垂直統合する弥太郎の嗅覚は、近代日本のインフラそのものを私企業の手で敷設していくプロセスでもあった。