映画『アウトレイジ』において、ビートたけし演じる組長・大友の右腕として絶対的な存在感を誇ったのが、大友組若頭の水野です。黒のスーツを隙なく着こなし、感情を押し殺したような鋭い眼光を放つビジュアルは、従来のヤクザ映画が描いてきた泥臭い任侠像とは一線を画す都会的で冷徹なインテリジェント・ヤクザの完成形でした。
ファンの間で今も語り草となっているのが、椎名桔平が放つ緩急自在な演技と「かっこいい名セリフ」の応酬です。相手を挑発する際の乾いた嘲笑や、大友の指示に対して一切の迷いなく「分かりました」と応じる忠誠心。そして、怒号が飛び交う修羅場で発せられた以下の言葉は、劇中の緊迫感を一気に沸点へと導きました。
「てめえ、組長呼んでこいコノヤロー!」
短く鋭い恫喝でありながら、声のトーンや間合いの取り方によって、観客に本能的な恐怖を植え付ける圧倒的な説得力を持っていました。また、本作を象徴するバイオレンス描写の一つである歯医者での拷問シーンでは、ドリルを手にした水野が無表情のまま制裁を加えるという、日常と狂気が背中合わせになった名演を披露。暴力描写そのものの過激さ以上に、椎名桔平が醸し出す「感情の欠落した冷酷さ」が映画の緊張感を極限まで高めました。