世界中の人々を悩ませてきた最大の疑問は、「なぜ全く別の場所にある国が、ここまでそっくりな名前を持っているのか」という点です。オーストリアとオーストラリアの英語スペルを見ても、アルファベットの配列は非常に酷似しています。しかし、名前の語源と由来の違いを言語学的に辿ると、両者はまったく異なる方角を指す言葉から誕生したことが判明します。
まず、オーストリア(Austria)の語源は、古高ドイツ語の「Ostarrîchi(オスタリヒ)」に遡ります。これは「東の王国」「東の境界領地」を意味する言葉でした。962年に成立した神聖ローマ帝国の領有権の中で、ドナウ川流域の東方防衛拠点として位置づけられていた地域を指した表現です。この「オスタリヒ」というドイツ語表現がラテン語化される過程で「Austria」へと変化しました。つまり、オーストリアの根本的な意味は「東」です。
一方、オーストラリア(Australia)の語源は、古代ギリシャ・ローマ時代から信じられていた架空の南方大陸「Terra Australis Incognita(テラ・アウストラリス・インコグニタ=未知の南方大陸)」に由来します。ラテン語の「australis」は「南の、南風の」を意味する形容詞です。17世紀以降、航海者たちによって南半球の大陸が発見・調査される中で、イギリスの探検家マシュー・フリンダースが1814年の著書でこの大陸を「Australia」と呼ぶことを提唱し、正式な国名として定着しました。すなわち、オーストラリアの根本的な意味は「南」です。
ゲルマン系言語における「東(Ost)」がラテン語化されて「Austria」になり、ラテン語本来の「南(Australis)」から「Australia」が生まれたという経緯があります。「東」と「南」という全く正反対の概念が、言語翻訳と歴史の偶然によって同じようなスペルと発音に収束してしまったのです。