一方で、国内の現実に目を向けると、構造の空洞化が進んでいたのも事実だ。食の簡便化や単身世帯の増加に伴い、伝統的な献立様式は長らく衰退の危機に瀕してきた。農林水産省が主導する食育推進運動や、和食文化国民会議による文化継承のアクションは、単なる懐古趣味ではなく、国民の基礎体力を守るための切実な防衛策でもあった。
この重苦しい「作らねばならない」というプレッシャーを、鮮やかに解き放ったのが料理研究家の土井善晴氏だ。彼が提唱した「一汁一菜でよいという提案」は、料理に追われる現代人に深い安堵を与えた。汁飯だけで生活は成り立つという原点への回帰。だが、この思想の真の価値は、料理のハードルをゼロにリセットした上で、「余裕がある日に一品、また一品と足していく喜び」を思い出させた点にある。
義務感から解放された人々は今、自発的な探求として再び一汁三菜の豊かなバランスへと手を伸ばし始めている。